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共同湯の入り口、板の間の端っこ隅で寝ることにした(第74日、つづき1)


 午後3時7分、鳴子駅前に着く。

 東北地方最大の温泉郷の一つとのこと。道理でこの駅では乗り降りする人が多く、活気が漲っている。

 さて、どうする? 
 新しい土地に到着するや否や、既に今晩の寝場所に思いを寄せている。

 ホテル、旅館に宿泊予約を入れるということは最初から念頭にない。野宿出来そうな場所、しかも風雨が防げるところを極力探すことにしている。ガイドブックを仔細に検討し、先ず神社、寺、公園など泊れそうな場所を下調べ。

 ここ鳴子温泉郷では低料金で入れる共同風呂「滝の湯」があるということが判明した。先ずは温泉にゆっくりと入って旅の疲れを落とし、少し贅沢をした後、それからでも遅くはなかろう。宿探しは後回しだ。久しぶりに神社にでも頼みに行ってみようか。





 ■共同湯、板の間の隅っこの方で、

 午後4時からの一時間、共同湯に入った。この旅人一人のための、貸切り風呂のようでもあった。

 一人ゆったりと王様気分で温泉に頭だけを出して浸っていると、男の人が入って来た。仙台からここ鳴子に出張でやって来たという。風呂の中では初対面の挨拶をした後、この人と色々と話す。
 

 「今晩泊る所がないんですよねえ」とそれとなく自分の立場について言及すると、

 「ここに泊めさせて貰えば」と提案してくれる。

 それもそうだな、それは良いアイディアだ、ということですぐに同意してしまった。「ここ」とはこの共同風呂の板の間、風呂場へと進んで行く前の着替えをする場所、入口を開けて直ぐの板の間のこと。なるたけ安く泊まることを心掛ける、と常日頃考える旅人の観点からそう理解した。一方、仙台からの人は自分が今晩泊まることになっている、ここの旅館に泊まることを意味したのであろう。

 とにかく人がやって来て邪魔になるまでの間だけでも、「ここ」で寝かせて貰おう。自分一人で決め込んでしまった。

 

 午後6時10分、この旅人にとってはいつもの就寝時間がやってきていた、さっそく計画通りに板の間の片隅に寝袋を広げ、寝袋の中に潜り込んだ。

 ところが、ところがであった。この頃から共同湯を利用する人達が次ぎから次ぎと戸をガタンと開けてはピシャリと閉め、脱衣した後は風呂場の方へ進んで行く。

 夕方になれば入浴客達がここへやって来るものだということが全然念頭になかった。夜が来ればすぐにでも寝るのだという、この旅人の一人合点に再考を迫る状況が展開している。

 とにかく、お客の出入りが次第に激しくなってくる。

 うるさい。とてもうるさいのだ。こんなにうるさくては寝入ることに集中できない。安眠妨害の騒音の中、その場に横たわったままだ。

 どうしよう? 

 ここから離れようか。
 おさらばしようか?

 決意がつかない。しばらくすれば寝入ってしまっているかもしれない、そうすればもう周りの世界は関係ない。後は野となれ山となれ、どうにでもなれだ。そんな期待を抱き、そんな自分になるのを辛抱強く待っていた。

 早く寝入ってしまうのだ。早く寝てしまえば、もう聞こえない。気にならない。


 そんなことが起こるとは、予想だにしていなかった。
                             つづく



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