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盛岡公園内での、不思議な経験(第70日、つづき3)

19××年10月14日(土)晴れ


■同じ公園の、同じベンチ?

図書館を出た。夕方が迫る。

 さて、何処へ行こうか? 

 今晩も当てがない。


 盛岡公園に何か惹かれるものがあるかのように再び戻って行った。誰の邪魔にも迷惑にもならない。そして今晩寝るのに適当な場所はそこしか考えられない。一度見出した場所以外の場所探しが面倒くさいということもあって、そう思った。

 市の中心街に入った。目指す公園はどの道を通って辿り着けるのか、以前ならばそれなりに感が働いて気が付いてみれば、その場所に来ていたというようなことが多々あったのに、盛岡にやって来てからは方向感覚が鈍ってしまったらしい。


 背後から学生風の男の人、“日本一周中”とマジックインキの文字が読め、ちょっと関心が惹かれたのだろう、自分の自転車に乗ったまま話し掛けてくる。

 「日本一周しているのですか?」

 「ええ、そうですよ」

 「へえ、すごいなあ」

 「そんなに驚くことでもないですよ」 

 この人に教えられて貰って、午後5時半、公園に着く。





 早速、一昨晩の場所、東屋のベンチの所へと自転車を引いて行く。

 着いてベンチに腰を降ろすや否や、何処からともなく見知らぬ大人、男二人がやって来て、我らが三人一緒になって腰掛けましょう、といった風にタイミングを合わせるかのように、、まるで前以て打ち合わせていたかのように、その同じベンチに三人が同時に並ぶように腰掛ける格好になった。この自転車一周の人は両脇挟まれる形になった。

 同じ仲間とでも見て取ったのか。まるで待ち構えていたかのような、そんなタイミングの良さとでも言えようか。だが、変な感じ。

 空きのベンチ がもう一つ、直ぐ近くにあるというのに、わざわざここ、同じペンチにやってくる。別に口を利くような雰囲気でもない。見知らぬ他人同士。

 空きベンチがもう一つ、直ぐ近くにもあるのに、という無言の声が大きく聞こえたのか、二人はそちらへと暫くして移動した。




 午後6時、ベンチの上に寝袋を敷き、その中に着の身着のまま滑り込んだ。暗くなった中にあっても耳を澄ましている。

 すぐ近くにある、もう一つの、別のベンチには人が入れ代わり立ち代わりやって来ては腰掛ける。と思ったら立ち去り、またやって来ては座るという繰り返しが続いている。まるで今朝の鼾と同じだ。行ったり来たりと忙しそう。

 辺りはとっぷりと暮れ、公園内の乏しい照明と向う側のビルの窓から洩れる光の反映だけによって、ここ公園の中はかろうじて見渡せる。

 眼下の広場では、明日、秋の運動会でも開かれるのだろう、その為の準備に忙しい人達で賑わっていたが、それも今の時間ひっそりと鳴りを潜めてしまった。時折、思い出したが如く人の笑い声が何処からともなく聞えてくるが、それもすぐに消えてしまう。

 ベンチの上でさっきから寝入ろうとしていた。近くには人の歩くのが聞こえるものだから、また誰だろうと気になって容易に寝付けない。何が何だか良くは分からないが、回りでは何かが不思議と怪しく息づきながらも動いている気配が感じ取れる。

 変な場所に今晩も来てしまっていた。気味が悪い。しかし一度決めた場所を変わるつもりはなかった。

 行ったり来たりと、その辺をうろうろしながら、そしてそこの空いているベン チにやって来てはしばらく腰掛けている。何をやっているのか? 誰か人でも待っているのか、探しているのか? 

 アパートに泊めてくれた昨日の、いや、今日昼前までの、あの男の人が親切にも教えてくれた通り、変な男達がうろついているから気を付けなよ、とはこの男達のことなのか。


 上半身起こして、ちょうど目に付いた人の背中に命中させるかのように声を掛けた。このモヤモヤとした空気を切り裂いてしまいたかった。

 「誰か人でも探しているのですか!?」

 「いいや、いや」

 背広を着た、一見、中年のサラリーマン風であった。返事は曖昧、直接答えず、顔だけは急に近付けて来る。気色悪い!

 この東屋のベンチからは一段下の方、見通しが良い。彼らたちの格好の場所に今晩はこの余計な邪魔者が居座ってしまっているので困惑しきっていたのかもしれない。

 頭から足の先まで全身を寝袋の中に被っていた。午後9時、外気の寒さも手伝ってか、中は自分が吐く息で暖かくなり身動きもすることなく気丈にも横たわっていた。外の怪しく蠢く世界の存在も忘れていつしか寝入ってしまった。



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