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地元秋田の人からの、オープンな、ご親切な招待、まるで家族の一員のように迎えられる(第63日)

19××年10月7日(土)晴れ 


 ■ 朝を迎えた縁の下

外は冷たい空気が漲る。そんな中で朝を迎えた。

そして寝袋の中、全身包まっていたが、外気の冷たさを遮断出来る代物ではない。寝袋は夏用のまま、しかし季節は既に秋、そろそろ初冬が始まるのではなかろうかという時期、相変わらず夏の延長感覚、そのまま外で過ごしている。

報道によると今年県内で一番冷え込んだのだそうだ。昨晩、真夜中だろうか。守衛さんが見回りに来ていたのだろう。懐中電灯の湿ったような光が寝袋に当てられたのを憶えている。



この旅での習慣となった、独語、仏語、中国語のNHKラジオ語学講座を次々と聞いた後、午前8時20分、寝袋にくるまったまま上半身を起こす。温い中から上半身を出すのが厭われる。女子高校生が美術館の花壇に咲く花を写生に来ているのが、薄暗い縁の下からあちらの方、明るく眺められる。




 ■ 縁の下での朝食

食パンにジャム、バターをつけながら食べている間、芝刈り機がけたたましくもうるさい。静かにゆっくりと食べさせてくれない。

そんな騒音に急き立てられるかのように朝食もそそくさに済ませた後は、時間が来るまで、気が済むまで、週刊誌を読んだり、何んだかんだと時間を潰していたが、日の当たらない縁の下に恰も身を敢て隠し続けているかのようにしているよりも外に出た方が日が当たっていて暖かそうである。



 ■ 縁の下を出ると、

午前10時前、漸く腰を上げ、頭をぶつけないように中腰気味で身支度を整えて公園の中央へと歩いて行く。朝日が眩しい。明るい。良い天気だ。暖かい。

その中央にあるベンチに腰掛けた。向ぼっこを兼ねながら今日一日の、これからの予定でも考えるか、といった気分であった。

「よう、どっから来たのさ?」

 目を上げると二人の男の人が目の前に立っている。

「神奈川」

「神奈川の何処さ?」

「厚木の方」

「厚木か、俺、東京から来たのさ、一日で。朝4時に出て、30分休憩取って、ずっと止まらずここまで来たのさ」

「へえ? 一日でここまで来たのですか?」

 距離を行くにも歩いて行くという観点しか取れない。

「おめえさ、ここで何やってるでさ?」

「いやあ、今日は何処に泊ろうかと考えていたんです」

「昨日は何処さ泊っただ?」

「あそこ、美術館の縁の下。いやあ、寒かったなあ」

「何だ、おめえ、泊る所ねえのか?」

「まあ、野宿しますが・・・・・」

「そうか、そんなら、俺さ所、泊って行け、な?」

と言うわけで、広げた色々な荷物を素早く片付け、彼ら二人の後について行くのであった。彼らが東京から乗ってきたという車に同乗、途中、運転手さんのお母さんを乗せて、運転手さんの女兄弟の家に寄る。

その家ではお茶のサービス、お菓子、ナシを御馳走になる。暫くするとそのまま、お昼になってしまったということで昼食の味噌ラーメンを更には御馳走になる。

誰かが帰って来るのを待っているらしい。遅いなあ、まだかなあ、と運転手さんは落着かない。

午後3時過ぎ、やっと来た。ここの家の中学生を車で医者へと送って行くのであった。

運転手さんの実家へと行く。夕方になるまでにはまだ時間がある。大宮から来られたというお客さん、小山さんとおっしゃるが、二人で色々と話し合う。

話も尽き、外に出て、小山さんのお付き合いする。カメラが何処かおかしいということでカメラ屋さんへとカメラを見て貰う。直ぐに終わってしまった。夕方までまだ時間がある。レストランで軽い食事をする。それでもまだ時間があった。

やっと夕食となる。昨日はきりたんぽ鍋だったそうだ。今晩はしょっつる鍋。どちらも秋田の郷土料理だ、と。運転手さん。

「昨日会ってれば、きりたんぽが食べられたのになあ」

ハタハタという魚、そして野菜、豆腐などを味付けして煮込んだ料理。夕食の時間が来るまでにも色々と小山さんと一緒に行動を共にしながら腹に入れてしまったので、予想に反してたくさんは食べられず、それでも良く食べたと思う。ミカン酒を御主人からお酌して貰う。3杯。結構行けるお酒だ。

夕食が済んだら風呂だ。僕が入る番になる頃には、家の人達皆、何処かへと出掛けるため姿を消してしまった。夕食中に来られてた三男の武雄さんと大宮からのお客さんの小山さん、それと僕だ
けの三人が居残って留守を預かるといった形になった。

良い風呂だった。皆、熱い熱いと言っていたが、僕にとってはちょうど良かった。

風呂から出てきたら、ダンスの練習とパチンコに行くのだと武雄さんは出掛ける。ダンスですか? 秋田の人がダンスを習い行く。

小山さんと二人だけになって、プロレスのテレビ中継を見る。外では雨が激しく降って来た。

午後9時半頃か、奥さんと子供達が帰って来た。誰かの誕生日パーティに出掛けていたのだそうだ。そうこうするうちに皆、再び夕食の席、元の席にそれぞれが落着き、明日は何処へ行くのか、どういうコースで行くのか、と色々と僕に聞いてくる。

御主人達は車で十和田湖へと行くそうだ。汽車でか、バスでか、色々と迷ったらしく意見の調整に時間が掛かった。

 <十和田湖へ行くのか!> 

今頃は紅葉が一番良いだろう。明朝午前4時には出発するとのこと。一緒に行く人は午前3時半には起きなければならない。僕はもう回ってきてしまった。



皆、明日の予定が決まった。

で、僕はどうなのか? どうしようというのか、本当の所? 

明日は日曜日。何かを期待する気持ちになる。習慣で休みだということがそういう気持ちになるのだろう。が、僕にとっては日曜日だから、特にどうのこうのということもない。時には楽しく感じ、時にはこんなこと(ひとり旅のこと)投げ出してしまおうかと思ったりする。そんな旅を明日も明後日も続ける。

僕にとっては日曜日を重視するという生活の仕方ではない。考えて見れば、毎日が日曜日とも言える。晴れていても雲っていても、雨が降っていても、先へ、前へ、後を振り向くこともなく進んで行くのである。日本一周の旅は続く。



 
「何故そんな旅をしているのか?」

 皆さんは訊きたいと思うかもしれない。

またそうやっている本人とて出来ることならばその自然と多分湧いてくる、皆さんの疑問に答えて上げたいと思う。だが、簡単に人の気持ちなど分かるものだろうかと僕自身、少々懐疑的。

おばちゃんもそんな所を是非知りたかったのだろうが、理解出来たといった様子ではなかったようだ。光男さんは言ってくれる。

「明治生れじゃ考えも違うよ」

明治は遠くなりにけり。誰が言ったのだろう。

午後11時、床に入る。もちろん、布団の中だ。



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