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朝食を奢ってくれた自転車旅行の二人連れ(第62日)

19××年10月6日(金)曇り 

 ■朝食と自転車

 昨晩は寒かった。彼ら二人に合わせるかのように起き上がった。午前7時20分、起床。今日のための支度をすっかりと整え、一足先に出掛けて行くような態勢に見えたのだろうか。

 「あれっ、もう出掛けるのですか?」

 「いや、まだ行かない」

 「御飯、腹一杯食べさせてあげますよ」

 「本当ですか」

 ちょっと半信半疑であった。が、食べられると聞いて本当の話し、助かったという思いであった。


 朝食の用意、準備はもちろん彼ら二人が全部やり、僕は出来上がるのを脇で今か今かと待っているだけであったが、食べられるというので途端に雄弁になる。

 こうである。
 昨日、半島を相当苦労しながら、疲れながら、足の甲に痛みを感じながら、歩いてきたことがまだ頭の中に鮮明な映像としてあるものだから、彼ら二人が自転車で旅をしていることに対して羨ましさを感ぜざるを得なかった。

 重い荷物を担ぐ必要もなく、同じ時間を使うとしても歩くよりもより遠くへと移動出来る。また歩いて訪れるのも大変な所へ自転車では簡単に行けてしまう。歩く苦労やら苦痛を味わうことないだろう。自転車による旅の良さを僕なりに要約しているのであった。

 徒歩の旅と自転車による旅、この二つを比較すると断然後者の方が良いように思えてきてしまった。
 
 自転車で旅をしてみたい!!
 二人と話していると、そんな気持ちが募ってくる。

 「いいなあ、いいなあ」
  羨ましさを連発しているのであった。

 更に彼ら二人は自炊をやっている。熱いもの、温かいもの、野菜、米、味噌汁と、小規模でではあるが、兎に角料理する道具が揃っていて好きな時に、好きなだけ食べようと思えば、何処ででも食べることが出来る。

こんな素晴らしい旅の仕方、彼らは結局、何から何まで自分の力でやろうとしている。いや、実際にやっている。

 思えば彼らの旅の仕方はそのまま彼ら達の生活、人生の一幕ということであろうが、こんな風な暮らし方こそ ――そういえば、北海道の帯広のテントの中に誰でも好きなことが書けるようにしてあったノート、誰が備えたのか、雑記帳のことが思い出される。ノートの一ページにある女性の覚書があったが、同じような趣旨のことを記していた ――自分の求めていた生き方(今思えば、人生の過程での一時期と捉えられるのだが)ではなかったのかとも思われ、彼ら達が既に先駆けてそうしていることを目の当たりに見て、バスに乗り遅れてはいけないと、いやバスではなく自転車だ、自分も早くそうしたい、そうしなければ・・・・・と、気も焦る思いであった。

 自転車、自炊、自力で何から何までも何でもやってしまう。いいなあ、いいなあ。

 食費を切り詰めながら、明日へ明日へと先延ばしするために細々と旅を続けようとしている、そんな自分の姿とはほど遠い彼ら達の勇姿に感動しているこの自分。

 いや、そんな風に負け犬的には考えたくはない。意思は充分ある。ただそれを実現するだけの資金が手元に今はないということだけだ。ゆえにこれは貧乏旅行というのだ。

 「資金? それもアルバイトをすれば得られるのさ」
  一人が教えてくれる。

 「職安、キャンプ場で聞いてみると良いよ」
  二人目が更にヒントを与えてくれる。

 どこか働ける所、ないだろうか? 
心の中、早々、職探しを始めようとしているのであった。





 それにしても長い朝食時間だった。我々三人で食べている間、通勤人や学生達などが不審そうな横目で見ながら通り過ぎて行く。しかし、我々は全然気にしない。人目など気にしない、気にしない。わが道を行く。寧ろ内心得意だったと言っても良いかも知れない。生きる世界が違うんだから。

 鍋で御飯を炊き、それに即席カレーそばを暖め、中身をご飯の上にぶちまけて豪快に食べる。食後にはコーヒーを3杯飲む。腹一杯食べられることの幸せをこんなに感じたことはない。尤も、腹一杯食べられた時には、その都度そんな風に思っているのでもあったが。




 ■昼前に出発

 午前11時ちょうど、僕は礼を言って先に出発した。が、彼ら達自転車組みは僕を直ぐ追い抜いて、たちまち見えなくなってしまった。彼ら達、自転車で午後2時頃には秋田に着いてしまうだろう。僕としては今日もこの足で歩いて、今日辿り付ける所まで、まあ追分と秋田との間の何処か、その辺までとなるだろうか。


 歩きやすいように僕は半ズボン、彼ら達の自転車に追い付き追い抜こうとするかのように駆け足同然の足取りで歩いた。出発してから3時間、歩きっぱなしの約18?を歩く。

 35分間の休憩の後、この調子だと午後6時頃までには秋田に着けるだろうと思われ、痛む左足を気にしながらもどんどんと歩み進んで行く。

 15分後、前方に車が一台停車中だ。その脇を通ろうとすると、窓から顔が出てきて話し掛けられる。

 「乗って行かないかい?」

 飽くまでも歩きの旅を続けている自分であると考えていたが、せっかくの申し出、乗って行かなければ悪いように思われたので、有り難く乗せて行って貰うことにした。午後2時50分からの、約25分間。




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