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早朝の、突然の、御訪問にはおったまげてしまった(第58日)

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 ■突然の、ご訪問

 昨夜の雨は物凄かった。

 まさか雨漏りのする小屋とは想像もしていなかったが、雨が降る直前にタイミング良く小屋の中に収まっていたから、それでもドブ鼠のようにズブ濡れになることだけは免(まぬが)れた。勿怪(もっけ)の幸い也。


 朝になったら、人がやって来ないうちに起き上がって、ここを早く出て行こう、ここに泊まったことが知られないように、などと考え、目が覚めた後、寝転がったまま、それでは午前6時頃にしようか7時頃にしようかと、何時にしようか、何となくの寝不足気味の気分も手伝ってか、決め兼ねていた。

 「ええい、午前6時、今起きてしまえ!」と逡巡する自分を急き立て跳ね除けるかのように跳ね起き上がり、そのまま寝袋を畳もうとしていた、とちょうどその時、その時であった。

 ――  戸が「ガラリッ!」

 ―― ボクは「ギクリッ」

 背にしていた小屋の戸、それが何の予告もなしに、自動的に言わば勝手に「ガラリッ!」と開いてしまったのだから。

 急に明かりが差し入って来た。小屋の中はもちろん明るくなった。まるで自分の正体が暴露されてしまったかのような気持ちになった。

 ボクは「ギクリッ」と内心とっても慌てた。見つかってしまったのだ。どうしよう!? 隠れられる所があれば直ぐにも隠れてしまいたいと思ったが、何処もない、直ぐに観念した。

 おじいさんがちょっと言葉を失ったかのような表情で立ち尽している。

 「驚いたな、もう」

 言葉には出て来なかったが、そんな風に聞えるかのような見えるかのような登場であった。

 驚いたのはこっちもであった。お互いにちょっと当惑した表情を想像してみると良い。 

 「初(恥じ?)めまして、どうぞよろしく」と挨拶をすることさえも忘れてしまったのだった。

 慌ててはいけない。冷静を保って保って、落ち着け、落ち着いて――、その間、自分に無言で言い聞かせていた。



 「事前に許可も得ずに寝てしまって申し訳ありません!」

 「日本一周の旅の途中、昨晩は寝るところがなかったので、ついこんなところに来てしまいました。すいませんでした」

 平静を装って、おじいさんには事情を腹の底から噛んで含めるかのようにゆっくり話す。



 実際、こっ酷く怒られるかと思った。ところが、おじいさん、

 「前にもこの同じ場所に自転車で来た人がいたよ」とか、

 「キャンプして行ったよ」とか、

 そんな出来事、そんな思い出を話してくれる。

 歴代の旅人はこのおじいさんのリンゴ園の小屋を眺めて同じようなことを思った。そして行動に移した。そんな隠れた事実がおじいさんによって初めて明らかにされた。ここは格好の宿泊場所となってしまっていたのだ。かくしてぼくもそんな歴代の一人となった。

 と御自分の話しがまだ途中で、全部終ってもいないのに、何か急用でも思い出されたのか、まだ続きそうな話の腰を折るかのように、尻を端折るかのようにさっと目の前から姿を消してしまった。

 トイレ? どうしたのだろうとちょっと宙ぶらりんの心持ち、きょとんとしていると、程なくまた現れた。

 「リンゴ5個持って行きな」

 手渡してくれる。

 無断で小屋を利用したのに、おじいさん、怒ってはいなかったのだ。この若者の前途を祝して、御自分のリンゴ園で取れたリンゴまでくれた。



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