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歩くことは楽しい(第55日)
19xx年9月29日(金)晴れ■鼻水を垂らしながらの起床
朝、寝袋の中、頭から全身包み込んで海老のように縮こまっていた。寒かった、余りにも。
展望台の階段を駆け上がる足音。その騒々しさで目覚めてしまった。階段を登って行った人たち、階段の下で、誰かが一夜を明かしていたとは想像だに出来ないことだろう。午前8時20分だった。
疲れが取れるまでそのまま寝転がり続けていたかった。が、同時に目覚まし時計が鳴り響き渡っているのを耳にしている時の、あの気持ちになった。いつまでもこのままではいられない、人も頻繁にやってくることだし。格好悪い。
寝袋から出た。鼻水も出て来た。どうも風邪を引いたらしい。
■歩いて下って行く
身支度を整え、リュックを担ぎ、山道を下り始めた。午前9時20分だった。
道の両側、木々が覆い被さるようにトンネルを作っている。道路は曲がりくねって下って行く。ぼくもそれに合わせるかのように曲がりくねって行く。その間、車は前方、下から喘ぐかのように登って来るが、ぼくと同じ方向へと下って行く車は皆無。ひたすら歩いて下る。
午前10時10分、ある温泉地を通過する。その頃から背中の荷物が重く感じられ、もう一時間歩いたら休憩を取ろう、と自分に言い聞かせながら、下って行った。
やっと川辺に下りて休憩だ。ガイドブックを見たところ、吉川栄治の文学碑が今過ぎて来てしまった温泉にあるとのこと。残念ながら見落とした。
20分後、出発。道路の両脇は黄色く実った稲の畑が続く。お百姓さん達が取り入れに精を出している。一生懸命仕事をしている。ぼくは傍観をしている。
時たま、車は通るが、乗せて行って貰おうという気持ちはない。サインを出してもどうせ止まらないだろう、と思い込んでいるので、気楽に見送っている。
相変わらず歩いて下っていると、猛スピードで坂道を強引に登って行った車があった。暫くして、今度は逆にその車、下って来る。ちょっと冷やかし気分、どんなものかと試しに手を挙げてみたら、止まった! 何が起こるかわからない。自分の思惑とは関係ないことが起こる。面白い。
この辺の道路には慣れているのだろう、上り坂に劣らず下り坂を結構なスピードで運転し、途中の色々な温泉郷を通過、黒石(クロイシ)も通過、そしてある村で降ろされる。 午前11時15分からの、40分弱のドライブだった。
弘前(ヒロサキ)まで、あと10km。
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Category 第55日 滝ノ沢「秋田県」→弘前「青森県」
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