「君は何故海水浴をするのか？」と訊かれたとしよう（第５日、つづき１）

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■早朝の出発

　リュックを背負ったままの体勢でゆっくりと起き上がり、腕時計を見る、午前４時、再度の出発をした。

　まだまだ暗く、車の交通も非常に少ない。通過して行く車はタクシーばかり。ヘッドライトがやけに眩しい。

　一般の車はまだ走っていない。ヒッチ出来そうな車が少ない。当然、よく歩いた。朝が明けるまで歩いた。



　歩きながらも、途中、途中で、早朝のヒッチを試みた。

　結局４台と乗り継ぎ、古川には午前６時到着。古川で降り立ち、更に国道４号線沿いを歩いていると、道路脇に停車していた小型冷凍車から声が掛かった。

　「何処へ行くの？」

　「一ノ関の方へ行くのですが」

　「そっちの方までは行かないが、追町の方から行った方が近いよ。乗せてってやるよ」
そう言われたので有り難く助手席に腰を埋めた。

　午前６時４５分、追町に到着。そこからはトラックをヒッチ、気仙沼（ケセンヌマ）の手前、大谷海岸まで乗せて来て貰った。

　

■大谷海岸近くのドライブインで昼食

　海岸近くのドライブインでカレーライスを注文。朝食兼昼食の積もり。直ぐに食べ終えてしまった。

　「食べた！」　という食後の、あの満足感がない。

　「もっと食べたい！」　

　しかし、一度心に堅く決めた予算の枠を超えてはならぬと自制した。
　　　　
　昼食後、同じテーブルに腰掛けたまま、いつまでも気が済むまで粘っていた。食後の休憩だったということにしておこう。
　



　■今年初めての海水浴

　腰掛けたまま、これからどうしようかと思案していた。目の前に見える海岸の方をぼんやりと眺めていた。まだ朝のうちだったので人出も少なかったが、それでも昼前には海水浴客で結構埋まった。
　
　今年は夏になってまだ一度 も海水浴をしていないということに気付き、これは良い機会ではないか。言わば降って湧いて来たような、このチャンスを無駄にすることはない。他の海水浴客に混じって一緒に、いや一人で海水浴をすることに漸く決めた。

　誰だったか、外国の、世界的に有名な、ある登山家がインタビューを受けていた。
　
「何故その山に登るのか？」

　「そこに山があるからだよ」

　　そう答えたそうだ。 有名な話だ。


　
「君は何故海水浴をするのか？」と訊かれたとしよう。

　「そこにちょうど、たまたま海水浴場があったから」

　　真似をして、そう答えたかもしれない。行き当たりばったりの決定と実行。

　　
　午前９時から午後零時半まで、今年に入って初めての海水浴であった。こんな機会も訪れるかも知れないと実はリュックの片隅に海水パンツを一枚（一枚で充分！）忍ばせておいた。

　天候は申し分ない。海水も関東の、あの湘南海岸のように汚れてはいない。子供の頃、親に２、３回程連れて行って貰ったことがある。ここ東北での海水浴は気持ち良かった。

　ただ、海水浴を楽しんでいる間、リュックサックの荷物を見つけた人が、誰かが置き忘れたのだろうと好意的に、または意識的に間違えてそのままお持ち帰りになってしまうかもしれないと、そんなことが起こっては大変だ、困る、海水浴を楽しんでいるところではない、旅行中、油断しているとそんなことも起こり兼ねない、と良く聞いていたので、この我が身に、いやあの我が荷にそんなことがゆめゆめ起こらないようにと、そんなことばかりが心配で、荷物を置きっ放しにした砂場の方に目を定期的にちらっちらっと覗っては、荷物の存在を確認し、一安心を何度も繰り返していた。

　東北の海水に全身浸かった後、また衣類に包まれて、肌触りが良い。おまけに何だか身軽くなったような気分、海水浴はまさに恰好の気分転換でもあった。気になる海水浴であった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく

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