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真夜中、蚊のお見舞いで睡眠が取れない(第5日) 

「第5日」 19xx年8月10日(木)晴れ
   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 石巻[宮城県]→ 陸前高田[岩手県]
                
         
 もう我慢ならん!

 昨日の蚊には大いに悩まされ、午前2時頃、思い切って起き上がってしまった。

 まだ外は真っ暗。静まり返った中を時がゆっくりと流れているかのようだ。

 出発しよう。

 そう思った。



 出発前、洗顔のために駅のトイレに立ち寄って行こうと、駅の正面玄関前を通り掛った。

 何ということか! その玄関前の地べたには昨晩、何処からともなく知らぬ間に、実は他に泊まる場所がないから駅の構内だったら一夜を明かせるだろうと期待してやって来て、たまたま一緒に集まった“無宿”の男達、束になって追い出しを食ってしまったが、その6、7人全員が軒下に、無防備にも、そして大っぴらにも、芋虫の如く、仲良く並んで寝転がっているではないか!

 蛍光灯の青白い光によって照らし出された真夜中の光景はこの目に強烈な印象を焼き付けるものであった。寝袋に包まった男達は今、アフリカライオンの夢でも見ているのだろうか。




 午前2時7分、気を取り直して、駅から出発。全身、鉛の固まりが詰まったように感じながらも真夜中の国道に沿って 一人歩き出す。

 10分もしないうちにある銀行の玄関前に差し掛かった時、さっき駅の玄関前で平気で寝ている男達の真似をするということでもなかったのだが、早速、俺も、と意識も半分睡眠状態で朦朧としていたことも手伝ってか、人目も憚らず、と言っても周りには誰もい なかったが、別に構うもんか、と言った投げ遣りな思いで、実行に移してしまった。


 睡眠不足で体がほとほと疲れていたし、自ずと休養を要求していた。もう何処ででもいい。とにかく体を暫く横たえられる所が欲しい。恥も外聞も、気にしてなんていられない。でも蚊の訪問だけはもう絶対に御断りだ。

 リュックサックを背負ったまま銀行の玄関前、比較的汚れていないと思われるコンクリートの上に一人ゴロリと横になった。雨が降り出してきても、以前の自分だったら慌てたが、しばらくはそのままじっとしていた。濡れても構わん。全然気にならない。

 寝入っていたのだろうか。それとも最初から目覚めていたのだろうか。自分が呼吸する音が微かに聞えているようでもあった。

                                     つづく

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